トモル
ルミナ、探究学習の事例が見たいんだ。ほかの学校が実際にどんなことをやっているのか、まったくイメージが湧かなくて。
ルミナ
いい入り口だね! 探究学習の事例は、文部科学省の手引き「今、求められる力を高める総合的な学習(探究)の時間の展開」3冊に実践事例としてまとまっているよ。小学校編・中学校編・高等学校編があって、全部PDFで公開されているんだ。
トモル
えっ、無料で読めるの? 探究学習の事例を検索すると、いろんなサイトの紹介記事ばかり出てくるから知らなかった。
ルミナ
そこが落とし穴なんだ。それに事例は「どんな発表をしたか」を眺めても真似できない。見るところは課題の設定のさせ方、情報の収集の手段、整理・分析の道具の3か所だよ。
トモル
読み方があるんだ。教えて!
探究学習の事例は文部科学省の手引き3冊に載っている

ルミナ
まず、事例がどこにあるかを地図にしておこう。探究学習の事例は、性格の違う3種類の一次資料に分かれて載っているんだ。
トモル
3種類?
ルミナ
1つ目が学習指導要領解説。ここには「探究課題の例」、つまりテーマの候補が校種ごとに載っている。2つ目が手引き「展開」。ここに実際の授業の手立てと単元の事例が入っている。3つ目が中央教育審議会のワーキンググループの議事録で、これは事例そのものではなく、いまの事例に何が足りないかの議論だよ。
トモル
授業をイメージしたいときは2つ目だね。
ルミナ
そう。文部科学省の「総合的な学習(探究)の時間」のページでは、この手引きを計画の基本的な考え方や具体例、学習指導などを解説し、優れた実践事例を取り上げた資料と説明しているよ。
| 手引き | 対象 | 公表 |
|---|---|---|
| 今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(小学校編) | 小学校 | 令和3年3月 |
| 今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開(中学校編) | 中学校 | 令和4年3月 |
| 今、求められる力を高める総合的な探究の時間の展開(高等学校編) | 高等学校 | 令和5年3月 |
トモル
高校だけ書名が違う?
ルミナ
よく気付いたね! ここは事例を探すときに絶対に外せないポイントだよ。
トモル
なるほど、検索ワードから間違えてたかも。で、手引きの中身ってどうなってるの?
探究学習の事例の中身は「探究の4段階ごとの手立て」
ルミナ
ここが一番の驚きどころだと思う。手引きの事例は大半が、「探究のどの段階で、どんな手立てを使ったか」の事例集で、そのあとに単元まるごとの事例が続く構成になっているんだ。
トモル
えっ、最初から学校ごとに並んでるわけじゃないんだ。
ルミナ
まず課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現の4段階ごとに、番号を振った手立ての事例がずらっと並ぶ。そのあとに学校単位の単元事例が載っているんだ(高等学校編ではこれを「単元計画の具体例」と呼んでいるよ)。手立てのほうを数えるとこうなるよ。
| 探究の段階 | 中学校編の事例数 | 高等学校編の事例数 |
|---|---|---|
| 課題の設定 | 9 | 9 |
| 情報の収集 | 17 | 12 |
| 整理・分析 | 20 | 16 |
| まとめ・表現 | 14 | 12 |
トモル
整理・分析がいちばん多いんだ! 意外だなあ。
ルミナ
そこが手引きのメッセージだね。中学校編だけで20本、高等学校編で16本。テキストマイニング、統計的手法、KJ法的な手法、コンセプトマップ、ベン図、SWOT分析、ロジックツリー、フィッシュボーン、座標軸、クラゲチャート、ピラミッドチャート、といった具合に道具の名前で並んでいるよ。
トモル
道具の名前で引けるのは実用的だね。課題の設定のほうは?
ルミナ
体験活動から、資料の比較から、シミュレーションから、グラフの読み解きから、ブレインストーミングから、KJ法的な手法から、対象へのあこがれから、問題の序列化から、ウェビングから。この9通りだよ。
トモル
具体的な中身も載ってるの?
ルミナ
載っているよ。高等学校編の「体験活動から課題を設定する」だと、実践例は生活圏の海岸の砂を持ち帰り、その中にどれくらいのマイクロプラスチックがあるかを分析し、同じ生活圏の河川も調査した、という流れ。そこから「海洋と自分たちの生活圏は密接につながっているのだろうか」という問いが立ち上がる、と紹介されているんだ。
トモル
おお、そこまで具体的なんだ! 探究学習で実際にどんなことをするのかが見えてきた。
ルミナ
段階ごとの手立てが見えたところで、次はテーマそのものを見にいこう。
小学校・中学校・高校の探究学習の事例(探究課題の例)
ルミナ
テーマの候補は手引きではなく学習指導要領解説のほうに載っているよ。しかも校種によって課題の区分の数が違うんだ。
トモル
数が違う?
ルミナ
小学校は三つの課題。横断的・総合的な課題、地域や学校の特色に応じた課題、児童の興味・関心に基づく課題だね。中学校と高等学校はこれに1つ増えて四つの課題になる。
トモル
増える1つって何?
ルミナ
中学校は「職業や自己の将来に関する課題」、高等学校は「職業や自己の進路に関する課題」。名前まで微妙に違うんだ。
| 校種 | 課題の区分 | 解説が挙げる探究課題の例 |
|---|---|---|
| 小学校(総合的な学習の時間) | 三つの課題 | 身近な自然環境とそこに起きている環境問題(環境)/町づくりや地域活性化のために取り組んでいる人々や組織(町づくり)/実社会で働く人々の姿と自己の将来(キャリア) |
| 中学校(総合的な学習の時間) | 四つの課題 | 地域の自然環境とそこに起きている環境問題(環境)/安心・安全な町づくりへの地域の取組と支援する人々(安全)/職業の選択と社会への貢献(職業) |
| 高等学校(総合的な探究の時間) | 四つの課題 | 自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題(環境)/地域活性化に向けた特色ある取組(町づくり)/職業の選択と社会貢献及び自己実現(職業) |
トモル
同じ「環境」でも、小学校は身近な、中学校は地域の、高校はグローバルな、って書き分けられてる!
ルミナ
そこが一次資料に当たる価値だね。そして解説は、探究課題とは例示された課題を更に具体化したものだと言っている。つまり表の文言はゴールではなく出発点なんだ。
トモル
具体化の例もある?
ルミナ
あるよ。外国人との関わりが多い地域で、国際社会で活躍する人材育成を学校教育目標に掲げる学校が「国際理解」を重視した場合、「地域に暮らす外国人とその人たちが大切にしている文化や価値観」のような探究課題が考えられる、という例が小学校編にも中学校編にも載っている。テーマの決め方そのものは探究学習のテーマの決め方で詳しく扱ったよ。
トモル
テーマの候補はわかった。じゃあ実際の単元って、どれくらいの規模なの?
総合的な探究の時間の事例を1つ分解してみる
ルミナ
高等学校編に載っている単元計画の事例を1つ、丸ごと分解してみよう。第3学年「町民の健康寿命を延ばすために〜地域住民と共に取り組めること〜」、35時間扱いの単元だよ。
トモル
35時間! 年間でそれくらいなんだ。
ルミナ
過疎化と高齢化が進む地域の実践で、探究課題は「町民の健康に関する問題と、健康寿命の改善に向けた具体的な取組」。単元を組んだ理由が面白くてね、生徒への意識調査をしたら、改善の取組について「行政に働きかける」「高齢者と若者が交流をする」といった表面的な課題意識に留まっていた、と書いてあるんだ。
トモル
えっ、生徒の実態から逆算して単元を作ってるんだ。
ルミナ
そう、ここが真似すべき設計の順番だよ。中身は3つの小単元に分かれている。
| 小単元 | ねらい | 時数 |
|---|---|---|
| 1 | 地域課題を整理し、高齢者福祉の在り方を考えよう | 8 |
| 2 | 高齢者の健康寿命の改善に向けて、自分たちにできる取組について考え、検証しよう | 15 |
| 3 | 自分たちの取組を振り返り、高齢者福祉の今後の在り方について考えよう | 12 |
トモル
真ん中がいちばん厚いね。
ルミナ
先行研究やアンケート調査を踏まえて現状を分析し、行政や医療職と連携して高齢者向け健康教室を実施して、自分たちが考案した取組を検証して改善する。ここに15時間かかるわけだね。
トモル
評価はどうしてるの?
ルミナ
評価方法の欄に並ぶのが、研究計画書、研究日報、健康寿命改善計画書、データ分析資料、研究発表会での発表や質疑応答、研究集録。発表会の一発勝負ではなく、途中の記録物で見ているんだ。評価の作り方そのものは探究学習の評価で扱ったよ。
トモル
中学校の事例もこんな感じ?
ルミナ
中学校編には3本の単元事例があるよ。第2学年「未来の人も豊かな暮らしをするために〜エネルギー問題について考え、自然環境との共生を目指す〜」が50時間、第3学年「みんなでつくる持続可能で魅力的なふるさと○○市」が50時間、第3学年「地域の安全を守ろう」が35時間。どれも3つの小単元で構成されている。
トモル
単元の形が見えてきた。でも、これを自分の学校でやるとしたら、どこを写せばいいんだろう。
探究学習の事例で見るべきは発表の見栄えではない

ルミナ
ここが今日の核心だね。事例を読むとき、つい成果発表の写真やスライドに目がいく。でもそこは真似しても再現しない部分なんだ。
トモル
どうして?
ルミナ
発表は結果だから。同じ発表をさせても、そこに至る問いの立て方と調べ方が違えば別物になる。だから見るのは手前の3か所だよ。
トモル
なんで整理・分析まで見るの? そこがいちばん地味じゃない?
ルミナ
地味だからこそ、なんだ。中学校編の手引きは、平成28年の中央教育審議会答申が指摘した課題として探究のプロセスの中でも「整理・分析」「まとめ・表現」に対する取組が十分ではないと紹介しているよ。
トモル
えっ、国の答申でそこが弱いって言われてたんだ。
ルミナ
そう。探究のプロセスのうち答申が課題に挙げたのは「整理・分析」と「まとめ・表現」の2つで、そのうち整理・分析の事例がいちばん多く載っているのは確かだね。探究の回し方そのものは探究学習の進め方にまとめてあるよ。
トモル
見るところがはっきりした。じゃあ自分の学校にどう持ち込む?
探究学習の事例を自校に置き換える手順
ルミナ
事例をそのまま持ってこられない理由は単純で、地域の文脈も、生徒の実態も、使える時数も学校ごとに違うから。手引きはそこを飛ばさないように、年間指導計画を作るときの確認項目を並べているよ。
トモル
確認項目?
ルミナ
高等学校編には、「素案の作成」「素案の吟味・修正・改善」「管理と運用」の3段階でチェック項目が示されているんだ。そこから事例の置き換えに効くものを順番にすると、こうなる。
- 学習指導要領の目標と自校の学校教育目標を確認する
- 実施しようとする単元展開と、自校が定めた「目標及び内容」との間に整合性があるかを確認する
- 生徒の意識の実態に照らして、一年間の意識の流れに無理がないかを確認する
- 各教科・科目等の年間計画を把握し、関連を確認する
- 地域の素材を捉え、実地調査する。地域の行事と日程と内容の両面で関連を確認する
- 探究活動に必要な時数が確保されているかを確認する
- 単元の途中で生徒の興味・関心と課題が「ずれ」ていないかを確認し、ずれたら年間指導計画に修正を加える
トモル
5番の実地調査って、先生が自分で行くってこと?
ルミナ
そう書いてあるね。事例の学校が行った場所ではなく、自分の学校の周りを歩く。ここを飛ばすと、借り物のテーマのまま1年が進んでしまう。
トモル
7番もいいね。ずれたら計画のほうを直すんだ。
ルミナ
計画は守るものではなく、直しながら使うものという前提だね。あと、手引きの年間指導計画の例で面白いのは、単元の最初の活動に「昨年度までの自校の探究事例の把握」が入っていること。
トモル
えっ、他校じゃなくて自分の学校の去年の事例?
ルミナ
そこが盲点だよね。いちばん条件が近い事例は、去年の自分の学校にあるんだ。
トモル
たしかに! じゃあ逆に、やりがちな失敗も知っておきたいな。
探究学習の事例でよくある失敗
ルミナ
4つ挙げるね。どれも一次資料が課題として名指ししているものだよ。
トモル
2番目、心当たりがありすぎる。
ルミナ
ワーキンググループの第1回でも、中学校に固有の課題として、総合の本来の趣旨とは距離のある活動に総合の時数が充てられ、まとまった時間を割いて探究に取り組めていない事例があるという指摘が資料で示されているよ。
トモル
国の会議でもそう見られてるんだ。
ルミナ
もう1つ、学校で設定した総括的なテーマが重視されて、個人の興味関心が十分に考慮されていない例が多く見られる、という指摘もあった。学校のテーマを決めることと、生徒の問いを立てさせることは別の作業なんだね。
トモル
事例を写すと、そこが一緒くたになりやすいのか。
ルミナ
そう。探究の質の話は探究学習で大事なことで詳しく扱ったよ。ここまでが今ある事例の話。最後に、これからの話をしよう。
探究学習の事例はこれからどう変わるのか
ルミナ
いま紹介した手引きは令和3年から令和5年にかけて出たもので、現行の学習指導要領が前提だよ。その次の指導要領に向けた議論が、中央教育審議会のワーキンググループで進んでいるんだ。
トモル
事例も変わるの?
ルミナ
そこはまだ決まっていない。ただ、審議中の論点は事例の見え方に関わるものが多いよ。探究の意味する範囲をどう共通認識にするか、小学校の総合に情報の領域(仮称)を加えるか、計画づくりや評価をどう簡素にするか。このあたりが議題に挙がっている。
トモル
情報の領域って、探究の事例にも関係する?
ルミナ
第2回では、ミニ探究のイメージとして事例が示されているのは学校現場にとって心強い、という意見が出ていたよ。一方で、事前に全部やっておこうとすると時間が取れない、他教科のカリキュラムの状況も見ながら内容を決める必要がある、という趣旨の指摘もあった。どれも審議中で、確定した話ではないから、そこは急がずに見ておこう。
トモル
決まってから動けばいいんだね。
ルミナ
今ある手引きの事例は次の指導要領が動き出すまで有効だから、いま読む価値は十分あるよ! 論点の全体像は探究学習はこれからどう変わる?に、会議の中身は第1回のまとめと第2回のまとめにまとめてあるよ。
トモル
一通り掴めた気がする。最後に整理してほしいな。
探究学習の事例の要点
トモル
事例を「真似する対象」じゃなくて「読む対象」として見ればいいんだね。
ルミナ
その通り! そして読むときは必ず原典に当たってね。手引きも解説も全部PDFで公開されているよ。