トモル

ねえルミナ、探究学習で大事なことって、結局なんなの?調べても「主体性が大事」みたいな話ばかりで、よく分からなくて。

ルミナ

一言でいうと、探究学習で大事なのは、決められた手順を回すことではなく中身の「質」だよ。国の会議では、その質を課題・プロセス・成果という3つの角度から見る考え方が示されているんだ!

トモル

えっ、質…?手順どおりにやればいいわけじゃないんだ。

ルミナ

そこがいちばんの落とし穴なの。中央教育審議会の「生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ」――次の学習指導要領に向けて総合の見直しを検討している会議――でも、探究のプロセスを形式的に回して学びが空洞化している事例があると、事務局から指摘されているんだ。

トモル

うわ、耳が痛い…。じゃあ、その3つの質から教えて!

探究学習で大事なことは「探究の質」

課題の質・プロセスの質・成果の質という探究の質を支える3つの視点を示した図

ルミナ

まず全体像からいくね。ここが分かると、あとの話が全部つながるよ。

トモル

お願いします!

ルミナ

今の学習指導要領だと、探究の質は「高度化」「自律化」という2つの言葉で説明されているの。ただ、この2つはふだんの評価や振り返りの物差しにしづらいという声が会議で挙がっているんだ。

トモル

言われてみると、うちの学校でもその言葉は使ってないかも…。

ルミナ

そこで示されたのが、探究の質を3つの角度に分けて見る考え方。表にするね。

視点何を見るか
課題の質設定した課題が、自己と他者・社会にとってどんな意味を持っているか
プロセスの質試行錯誤の中で学びを主体的に調整し、他者と協働し、知識や方略を用いているか
成果の質自己にとっての新たな意味・理解の構築や、他者・社会にとっての価値の創造につながっているか

トモル

なるほど、「何を大事にすればいいか」がこの3つに集約されてるんだ。

ルミナ

そう!しかも会議では、この3つは特定の学習過程だけに関わるものではない、という注意書きが添えられているよ。課題の質なら、プロセスの中でどう洗練されていったかまで含めて見る、という考え方なんだ。

トモル

一発で決まる話じゃないんだね。じゃあ1つめの「課題の質」から詳しく教えて!

大事なこと1 「課題の質」は入り口の数で決まる

ルミナ

探究の出発点であり、いちばんつまずきやすいところだね。

トモル

「テーマを決めよう」って言っても、なかなか決まらないんだよね。しかも決まったと思ったら、去年の先輩と同じテーマだったり。

ルミナ

あるある!そこで会議では、子どもが自分にとって切実な課題にたどり着けるように、興味・関心の「裾野」を広げる方策が例として示されているよ。深い問いを最初からぶつけるのではなく、入り口を増やすという発想なんだ。

トモル

入り口を増やす?どんなふうに?

  1. 体験から広げる。体験を通して興味・関心を広げたり、好奇心を喚起したりする
  2. 先人・社会から広げる。友達や先輩・後輩、周囲の大人が取り組む課題に触れながら、自分にとって魅力的な課題を考える
  3. 対話から広げる。友達との対話を通じて、互いの課題の質を高め合う

トモル

3つめがいいね。テーマ決めって一人で悩ませがちだったかも。

ルミナ

会議でも、友達との対話を通じて互いの課題の質を高め合う、という形で挙げられているよ。課題づくりは個人作業じゃないってことだね!

トモル

でもさ、時間をかけて決めた課題が、途中で「やっぱり違う」ってなったらどうするの?計画が崩れそうで怖いな。

ルミナ

大丈夫、それも織り込み済みなんだ。会議では、一度設定した課題に拘泥する必要はないという考え方が示されているの。

トモル

えっ、変えていいんだ!

ルミナ

うん。むしろ、やってみたら興味が深まったり広がったりして課題が動くのは自然なこと。課題が動いたこと自体が、探究が進んだ証拠と見ることもできるよ。だから「最初に決めたテーマを最後まで貫く」を目標にしなくていいんだ!

トモル

気が楽になった…!じゃあ、途中で変わったことをどう受け止めればいいの?

ルミナ

そこがまさに次の話。課題がどう洗練されていったかは「プロセスの質」で見るんだ。

大事なこと2 「プロセスの質」は手順を回すことではない

ルミナ

ここが誤解のいちばん多いところだよ。

トモル

「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」を回すやつだよね?

ルミナ

そう、その探究のプロセスのこと。ただ会議では、プロセスをたどること自体が目的化することは望ましくないと明確化する方向が示されたんだ。実態としてバリエーションが生じることを前提にした、典型的な学習の姿を示すモデルだ、という位置づけだね。

トモル

じゃあ、何を見ればプロセスの質になるの?

ルミナ

3つの要素が示されているよ。学びの主体的な調整、他者との協働、知識や方略の活用。この3つが動いているかどうかが、プロセスの質なんだ。

トモル

「振り返り」はどこに入るの?よくやらせるやつだけど。

ルミナ

いい質問!振り返りは、プロセスの質のうち「学びの主体的な調整」に必須の要素で、課題の洗練にもつながる重要なものと位置づけられているよ。ただ、コマごと、一定のまとまりごとなど、いろいろな単位・場面で実施されるものなので、4つの探究のプロセスの1つとしては位置付けない、という整理の案なんだ。

トモル

最後にまとめて書かせるものじゃなくて、あちこちで起きるものなんだ。

ルミナ

そのとおり。情報の収集に関わって振り返る、整理・分析に関わって振り返る、という例が挙げられているよ。単元の終わりの用紙1枚に押し込めなくていい、というのは現場的にも大きいよね!

トモル

たしかに。じゃあ3つめの「成果の質」は?

大事なこと3 「成果の質」は発表の出来ばえではない

トモル

成果の質って、やっぱり発表がうまいかどうか?

ルミナ

そこが分かれ目なんだ。会議で示された成果の質は、自己にとっての新たな意味・理解の構築やさらなる探究への意欲、他者や社会にとっての価値の創造につながっているかという視点だよ。

トモル

プレゼンのうまさじゃないんだ…!

ルミナ

うん。委員からも、成果の質はポートフォリオのように自分のストーリーとして語れるかどうか、腑に落ちる事実を持っているか、という趣旨の意見が出ているよ。

トモル

「腑に落ちる事実」って言い方、いいなあ。

ルミナ

借り物の結論で終わっていないか、という問いかけだね。この視点で見ると、総合の探究の質は随分変わってくる、という意見だったよ。

トモル

「自分のストーリーとして語れるか」なら、発表が下手な子でも見取れそうだね。

ルミナ

そこが大事なところ!声が小さくても、なぜこの課題にたどり着いたかを自分の言葉で説明できるなら、成果の質は高いと見られるんだ。

トモル

小学生と高校生で、同じ物差しでいいの?

ルミナ

そこも論点になっていて、小中高を通じた探究の深まりを参考資料の形で示す案が出ているよ。ただし案が出ている段階で、確定した扱いではないから気をつけてね。

トモル

分かった。ところでさ、うちの探究、成果が「調べたことの寄せ集め」になりがちなんだよね…。

なぜ探究学習が「切り貼り」で終わるのか

ルミナ

その「切り貼り」、会議では原因まで踏み込んだ意見が出ているよ。

トモル

原因?子どもがラクをしたがるから、じゃないの?

ルミナ

そこがちがうんだ。子どもの姿勢の問題じゃないんだよ。この点を会議で取り上げた委員は、情報活用能力の指導が不足しているからこそ起きるものだ、という見方を示したの。活動は動いているのに、学びだけが残らない状態だね。

トモル

えっ、子どものやる気じゃなくて、教える側の穴なんだ。

ルミナ

そう考えると打ち手が見えてくるよね。同じ意見の中で、質の高い探究を実現していく基盤として情報活用能力の抜本的な向上が欠かせないと述べられているんだ。調べる力を鍛えることが、そのまま探究の質を押し上げるということだね。

トモル

つまり、調べ方そのものを授業で教える時間がいるってこと?

ルミナ

そういうこと!情報をどう選ぶか、どう確かめるか、どう自分の考えに組み替えるか。ここを飛ばすと、どんなに素敵な課題を立てても最後は切り貼りになってしまうんだ。3つの質に当てはめると、こんなふうに見えるよ。

ありがちな姿会議で示されている考え方
手順を4つ回せば探究になるプロセスをたどること自体が目的化するのは望ましくない
課題は最初に決めて最後まで変えない一度設定した課題に拘泥する必要はない
発表がうまくできれば成果自己にとっての新たな意味の構築や、他者・社会にとっての価値の創造につながっているか
情報はネットで集めれば足りる情報活用能力が、質の高い探究を支える基盤

トモル

こう並ぶと、直すところがはっきりするね。

ルミナ

そもそも探究と調べ学習は何が違うの?という入口から確かめたい人は探究学習とは?にまとめてあるよ。ここまでが授業づくりの話。次は先生がいちばん困るところにいこう!

探究学習の評価で大事なこと

探究のプロセス全体を同じ視点で継続的に見取ることを示した図

トモル

授業づくりは分かってきた。でも、うちの学校で探究がしんどい最大の理由って、たぶん評価なんだよね。

ルミナ

ポイントを1つだけ言うなら、評価は材料を集める作業ではなく、同じ物差しで見続ける営みということ!

トモル

材料を集めない…?えっ、集めなくていいの?

ルミナ

「集めるな」ではないよ。総括のために評価場面を細かく割りつけて材料を積み上げることは求めない方向で議論が進んでいる、ということなんだ。制度としてどう見直す案が出ているかは探究学習はこれからどう変わる?にまとめたから、ここではじゃあ何を見るのかを掘り下げるね。

トモル

助かる。正直、何を見ればいいか分からないから材料を増やしてた気がする…。

ルミナ

いいところに気づいたね!会議で具体的な方法として挙がっているのが、ポートフォリオ評価法だよ。子どもの成長を長期的に捉えるうえで重要だ、という意見が委員から出ているんだ。

トモル

作品やワークシートをファイルにためていくやつだよね。うちもやってる!

ルミナ

ただ、そこには釘が刺されていてね。ポートフォリオは資料をためっぱなしにする単なるファイルやデータベースではないという指摘なんだ。

トモル

うっ…ためてるだけかもしれない。

ルミナ

大事なのはそのあと。探究のプロセスで蓄積した資料を子ども自身が振り返って編集したり、それを用いて検討会を行ったりすることが重要、という趣旨だよ。ポートフォリオを使って対話する検討会が、指導の場でもあり評価の場にもなる、という意見も出ているの。

トモル

見返して並べ替える時間まで含めて授業なんだ!

ルミナ

そう。そして、その対話の場がそのまま評価の場になるから、別枠で評価材料を集めに行かなくてよくなるんだよ。

トモル

なるほど、そこがつながるのか。じゃあルーブリックは作らなくていいの?

ルミナ

会議では、探究の評価にルーブリックが用いられる例もあるけれど、総合的な学習・探究の時間ではルーブリックを用いること以上に、まずは一人一人の探究の道筋に即した対話の中で評価を行うことが重要という意見が出たよ。もし用いるなら、年間を通して成長を捉える長期的なルーブリックがよい、ともね。

トモル

表を作り込むより、まず話すってことか。

ルミナ

そういう順番だね。もう1つ、委員から同じ観点で繰り返し評価することによって成長を捉えることが重要だという意見も出ているよ。課題を設定する場面、課題に即して活動する場面、成果をまとめて発表する場面を、それぞれ別の物差しで採点しない、ということだね。ちなみにこの意見は、質を課題・プロセス・成果の3つに区分すること自体への懸念とセットで述べられたものなんだ。

トモル

場面ごとに観点を変えないほうが、伸びが見えるんだ。

ルミナ

図にすると分かりやすいよ。点で採点するんじゃなくて、1本の線で見続けるイメージだね!ただし評価の見直しはまだ審議の途中で、これで決まりというわけではないから気をつけてね。

トモル

分かった。でも、ここまで全部やるって、先生ひとりだと無理じゃない?

探究学習を続けるために大事なこと

ルミナ

よく気づいたね。実は会議でも、そこが課題として挙がっているんだ。

トモル

どんなふうに?

ルミナ

事務局から、カリキュラムの設計に困難を感じるといった声があり、校務分掌や伴走支援、地域の支援体制等が十分に整備されていない中で特定の教師に負担が偏る傾向がある、と説明されたよ。

トモル

やっぱり…。高校はどうなの?

ルミナ

高等学校固有の課題としても、授業時間数に限りがある中でカリキュラムが過密で、学校外をフィールドにした大胆な取組が行いにくいこと、校務分掌や伴走体制、地域資源の活用が必ずしも進んでいない中で一部の担当教員に大きな負担がかかっている例があることが挙げられているんだ。

トモル

どうしたらいいんだろう。

ルミナ

委員からは、子どもが探究を深めるほど地域に出ていくので伴走する大人の存在が欠かせない一方、先生方だけで全て支えるのは負担が非常に大きいという指摘が出ているよ。学校運営協議会の場などで生活科や総合を含めた教育課程全体で育てたい資質・能力を共有しながら、地域と学校が協働する活動を充実させたり、社会教育と役割分担を明確にしたりすることが大切だ、という意見だね。

トモル

一人で抱え込まないことも「大事なこと」なんだね。

ルミナ

そう!ここは制度の側でも議論されている最中だから、現場だけの責任にしなくていいんだよ。この会議で最初にどんな課題が並べられたかは第1回のまとめに、生活科と総合のつながりについては第2回のまとめにくわしく書いてあるよ!

トモル

ちょっと救われた。最後に、今日の話を短くまとめて!

探究学習で大事なことの要点

ルミナ

この3行だけ持ち帰ってくれれば十分だよ!

トモル

明日からできそうなことって、ある?

ルミナ

子どもに「その課題は、自分にとってどんな意味がある?」と一度聞いてみるところからでいいと思う。それだけで課題の質は動き出すからね!

トモル

よし、やってみる。ありがとう!