トモル
ねえルミナ、探究学習のテーマってどうやって決めればいいの?生徒に「自由に決めていいよ」って言っても、全然決まらなくて。
ルミナ
探究学習のテーマの決め方は、「学校が定める探究課題」と「生徒一人一人の問い」の二層に分けて考えるのが出発点だよ。この二層がごちゃまぜだと、いつまでも決まらないんだ!
トモル
えっ、テーマって一種類じゃないの?
ルミナ
そう思われがちだけど、高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説の総合的な探究の時間編を読むと、はっきり分かれているの。しかも国の会議では、素朴な問いを一発で完成品にしなくていい、という考え方が検討されているところなんだ。
トモル
一発で決めなくていい…?それ、早く聞きたい!
探究学習のテーマの決め方は二層で考える

ルミナ
まず全体像からいくね。ここが分かると、あとの話が全部つながるよ。
トモル
お願いします!
ルミナ
高校の「総合的な探究の時間」で学校が定める内容は、二つで構成されるとされているの。一つが目標を実現するにふさわしい探究課題、もう一つが探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力だよ。
トモル
「探究課題」…はじめて聞いた言葉かも。
ルミナ
解説では、探究課題は従来「学習対象」として説明されてきたものに相当すると書かれているよ。探究的に関わりを深める人・もの・ことを示したもの、という説明だね。
トモル
じゃあ生徒が「私はこれを調べたい」って言うやつは、どっちなの?
ルミナ
それは下の層。解説では、実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立てることが欠かせない、とされているんだ。学校が用意した土俵の上で、生徒が自分の問いを立てる。この二層だね!
トモル
なるほど…。「テーマ決め」って言うとき、先生が決める話と生徒が決める話が混ざってたんだ。
| 層 | 決めるのは | 中身 |
|---|---|---|
| 探究課題(学習対象) | 学校 | 国際理解・環境・地域・進路など、探究的に関わりを深める人・もの・こと |
| 問い・課題 | 生徒一人一人 | 実社会や実生活と自己との関わりから見いだした自分の問い |
トモル
これって小学校や中学校でも同じなの?
ルミナ
まず名前が違うよ。小中は「総合的な学習の時間」、高校が「総合的な探究の時間」なんだ。ここで紹介している探究課題の例示や要件は高校の解説に書かれているものだから、そのまま小中の話として読まないでね。
トモル
別物ってこと?
ルミナ
つながってはいるよ。中央教育審議会の会議で示された提案では、高校段階で自己の在り方生き方に関わる裁量が最も学習者に委ねられる形を自律的に進められるようになることが目指され、小中学校段階では発達の段階や子供の実態も踏まえつつ、それを適切に取り入れることを明確化してはどうか、とされているんだ。
トモル
高校がゴールで、小中はその手前を育てるんだね。じゃあ上の層、学校が決める探究課題って具体的にどんなものがあるの?
総合的な探究の時間のテーマ例は解説の4分類から考える
ルミナ
解説にちゃんと例示があるよ。ただしあくまでも例示であり、各学校が探究課題を設定する際の参考として示したものという位置づけなんだ。
| 探究課題の種類 | 解説に示されている例 |
|---|---|
| 現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題 | 国際理解=外国人の生活者とその人たちの多様な価値観/環境=自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題/健康=心身の健康とストレス社会の問題 |
| 地域や学校の特色に応じた課題 | 町づくり=地域活性化に向けた特色ある取組/伝統文化=地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織/防災=安全な町づくりに向けた防災計画の策定 |
| 生徒の興味・関心に基づく課題 | 文化の創造=文化や流行の創造や表現/教育・保育=変化する社会と教育や保育の質的転換/生命・医療=生命の尊厳と医療や介護の現実 |
| 職業や自己の進路に関する課題 | 職業=職業の選択と社会貢献及び自己実現/勤労=働くことの意味や価値と社会的責任 |
トモル
おお、これは助かる!うちの学校でも使えそうなのがある。
ルミナ
全部を取り上げる必要はないよ。地域や学校、生徒の実態に応じて、取り組みやすい課題や特に必要と考えられる課題に重点的に取り組むことも考えられる、と書かれているんだ。それに課題の設定に際してはSDGsの17の目標を参考にすることも考えられるとも示されているよ!
トモル
例示にないテーマはダメなの?
ルミナ
ううん、例示以外の課題についての学習活動を行うことも考えられる、と明記されているよ。資源エネルギー、食、科学技術なども追加の例として挙がっているの。
トモル
じゃあ何でもアリに見えてきたけど…逆に選ぶ基準がほしいな。
探究学習のテーマ決めで満たすべき3つの要件
ルミナ
基準はあるよ。解説は、例示された課題は目標から導かれる三つの要件を適切に実施するものとして示されている、と説明しているんだ。
| 要件 | 中身 |
|---|---|
| 要件1 | 探究の見方・考え方を働かせて学習することがふさわしい課題であること |
| 要件2 | その課題をめぐって展開される学習が、横断的・総合的な学習としての性格をもつこと |
| 要件3 | その課題を学ぶことにより、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくことに結び付いていくような資質・能力の育成が見込めること |
トモル
要件1の「ふさわしい」って、何を見ればいいの?
ルミナ
解説では、一つの決まった正しい答えがあるわけではないことだと説明されているよ。教科・科目で学んだ見方・考え方を総合的・統合的に活用しながら、いくつもの角度から捉えて考えられるものであること、という条件だね。
トモル
答えが一つに決まる問いはテーマにならないんだ。
ルミナ
そう!だから「この市の人口は何人か」だけでは探究課題にならないの。あと生徒の興味・関心に基づく課題には注意書きもあって、学習の質的高まりが期待できるかどうかを教師が十分に判断する必要があるとされているよ。
トモル
えっ、好きなことなら何でもOKじゃないんだ。
ルミナ
うん。たとえ生徒が興味・関心を抱いた課題でも、総合的な探究の時間の目標にふさわしくない場合や十分な学習の成果が得られない場合には、適切に指導を行うことが求められる、と書かれているんだ。放任とは違うんだね。
トモル
条件は分かった。でも現実は、条件を説明しても生徒から問いが出てこないんだよ…。
探究学習のテーマが決まらないときの考え方

ルミナ
ここが今回いちばん伝えたいところ。テーマは一発で決めるものじゃないんだ。
トモル
でも、単元計画は最初にテーマが決まらないと動かせないよ?
ルミナ
それが、解説にはこう書いてあるの。各自の課題の設定には十分な時間をかけてよい、必要に応じて単元の総時数の3分の1程度を当てることも考えられる、って。
トモル
3分の1!?そんなにかけていいんだ…!
ルミナ
十分な時間をかけて一人一人にとって価値のある適切な課題を設定することが大切、という趣旨だね。ここで言う「適切な課題」は2つの条件で説明されているよ。
トモル
どんな2つ?
ルミナ
1つは、その課題を解決することの意味や価値を自覚できる課題であること。もう1つは、どのようなことを調べ、どのようなことを行うかなど、学習活動の展開が具体的に見通せる課題であること。この2つに届くまで時間をかけていい、ということなんだ。
トモル
じゃあ、その時間で何をすればいいの?
ルミナ
解説は、問いや課題は既有知識や既有の経験だけからは生まれないこともある、と書いているの。だから実社会や実生活と実際に関わることを大切にしたい、と。その関わりの中で問題意識が生まれる道すじが3つ示されているよ。
- 時間的な推移の中で、現在の状況が問題をもっていることを発見する
- 空間的な比較の中で、身の回りには問題があることを発見する
- 自己の常識に照らして、違和感を伴う問題があることを発見する
トモル
「違和感」か。それなら生徒も言葉にできそうだな。
ルミナ
そこから生まれた素朴な問いをどう育てるか。ここについて、中央教育審議会の会議で新しい考え方が示されているんだ。
トモル
中央教育審議会って?
ルミナ
次の学習指導要領づくりを議論している国の審議会だよ。その中の「生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ」――総合の見直しを検討する会議――の第3回が2025年12月26日に開かれてね。事務局から、こんな提案が出されたの。
トモル
どんな提案?
ルミナ
興味・関心や問題意識に基づく素朴な問いが、探究の過程で「解明したい『問い』」(Why)と「解決したい課題」(How)を行ったり来たりしながら、より解像度の高い問いや課題へと洗練されていく、という考え方。これを参考資料等の形で示すことを検討してはどうか、という提案だよ。
トモル
おお、まさに「一発で決めない」の中身だ!
ルミナ
ただし気をつけてね。これは「検討してはどうか」という提案の段階で、決まった話じゃないよ。会議でも、あくまで課題の設定を洗練していくための参考として一つの視座を提供するもの、と説明されているんだ。
トモル
決定ではないけど、考え方としては明日から使えそうだね。
ルミナ
そうだね。委員からも、課題設定を最初にうまく設定する技術ではなく、学びを進めていく途中で問いを更新していく核として位置付けられるとよい、という意見が出ているよ。
トモル
「更新していく核」…いい言い方だなあ。じゃあ逆に、やりがちな失敗も教えて!
探究学習のテーマ決めでよくある3つの失敗
ルミナ
第3回の会議で実際に語られていた3つを挙げるね。
トモル
1つめ、耳が痛い…。うちも「地域の防災」でクラス統一だったかも。
ルミナ
会議では、特定の湖の近くにある学校で水質縛りのようになっている例が語られていてね。それは多くの子にとって意味のある課題かもしれないけれど、ゲームが好きな子がゲームをもっと深掘りしたいと思ったとき、それが受け止められる形も大事なんじゃないか、という話だったよ。
トモル
ゲーム!そこまで認めていいの?
ルミナ
「これからの時代、大事なんじゃないか」という問題意識として語られた話で、そのまま制度になったわけじゃないよ。ただ、学校のテーマに生徒を合わせる発想を一度疑ってみる価値はありそうだよね。
トモル
2つめの「課題イコール困り事」も分かる気がする。放っておくと社会問題っぽいテーマばかりになるんだ。
ルミナ
委員からは、課題の設定で大切なのは素朴な「問い」から始めて問いを更新していくことで、問いが更新されることで課題が洗練されるという部分がもっと強調されるとよい、という意見が出ているよ。知りたい・やってみたい、から始めていいんだ!
トモル
あと、テーマが決まらないまま時間だけ過ぎるのって、うちだけじゃないよね…?
ルミナ
委員からも、夏休み前までクラス総合のテーマが決まらないという実践も見られたように思う、という発言があったよ。現場のつまずきとして国の会議でも共有されているんだ。
トモル
ちょっと救われた…!じゃあ、この先どうなっていくの?
これからの「課題の設定」はどうなるのか
ルミナ
第3回では、探究のプロセスの位置づけを整理する提案も出ているよ。
トモル
プロセスって「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」のこと?
ルミナ
そう、その4つ。この提案では、在り方生き方につながる「課題の質」の重要性に鑑みて「課題の設定」を強調するとされているんだ。テーマ決めが今より重く位置づけられる方向だね。
トモル
へえ!じゃあ「振り返り」はどうなるの?
ルミナ
そこは読み方に注意がいるところ。振り返りは、プロセスの質のうち学びの主体的な調整に必須の要素であり、課題の洗練にもつながっていく重要なものだとしたうえで、コマごとや一定のまとまりごとなど、いろいろな単位・場面で実施することが想定されるため、「探究のプロセス」としては位置付けない、という整理が示されているよ。
トモル
重要じゃないから外す、という話ではないんだ。
ルミナ
そこは正確に読みたいところだね。ほかにも、探究の態様によって想定されるプロセスが異なることを踏まえて、研究系・創作系・行動系といった探究の在り方を参考資料等の形で示してはどうか、という提案も出ているよ。
トモル
テーマの選択肢が広がりそう!でもこれも、まだ決まってはいないんだよね?
ルミナ
そのとおり。ここで紹介した第3回の内容は、いずれも「検討してはどうか」という提案と、それに対する委員の意見だよ。確定した学習指導要領の内容ではないから、そこは押さえておいてね。審議の全体像は探究学習はこれからどう変わる?に、そもそもの定義は探究学習とは?に書いてあるよ。会議の初回で何が課題として並べられたかは第1回のまとめ、生活科と総合のつながりは第2回のまとめを見てね!
トモル
よし、最後に今日の話を短く教えて!
探究学習のテーマの決め方の要点
ルミナ
この3行だけ持ち帰ってくれれば十分だよ!
トモル
明日からできることって、ある?
ルミナ
生徒に「その問いは、知りたいの? それとも何とかしたいの?」と一度聞いてみるところからでいいと思う。WhyとHowのどちらに寄っているかが見えると、次の一手が決まるからね!
トモル
それならすぐできそう。ありがとう!